黒星病の予防薬の防除効果・残効性・耐性菌
梨に甚大な被害を出す黒星病に使用される予防薬は、種類が多く効果(防除価)にも大きな差があります。予防薬は殺菌系統を複数組み合わせて効果が維持できるようにしなければなりません。・予防薬(非DMI剤)
黒星病に効果のある予防薬は種類が多く、薬剤防除における有効な薬剤です。しかし、QOI剤=ストロビルリン系薬剤(ストロビードライフラロアブル、アミスター10フロアブル、ファンタジスタ顆粒水和剤)では耐性菌発生リスクが大きく多用することが出来ません。DMI剤とQOI剤の耐性菌対策の重要性については、「ナシの農薬混用事例 DMI剤・QOI剤+殺菌剤(予防薬)」へ
また、商品名が異なっても同一成分を含有する商品(例:オキシラン水和剤、オーソサイド、ドキリンフロアブル)もあり、使用に際しては多用による耐性菌発生に注意しなければなりません。
本ページでは防除価を比較する便宜上、DMI剤以外の殺菌剤について治療剤を含めて予防剤としてまとめています。
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各薬剤の効果と残効期間は、個別に公表されている試験データの中から、近い条件で行われたデータをベンチマークとして、全体を指標化したものです。
同一条件で実験された結果ではなく、目安としての参考値です。
同一薬剤でも使用する時期により、梨の各ステージおける感受性の違いで実際の効果には差があります。
また、近年耐性菌発生リスクの高い低いに関わらず、地域により薬剤耐性の発達により防除効果が大きく低下している場合があります。
黒星病に対する防除効果など
商 品 名 | 成 分 名 | 防除 価 |
残効 期間 |
種 別 | 耐性菌 発生リスク |
備 考 |
カナメフロアブル※1 | インピルフルキサム水和剤 | 89 | SDHI剤 | 中~高 | ※推奨使用回数に注意 カナメフロアブルの混用事例 |
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88 | 10 | AP剤+有機硫黄系 | 中 | 生産終了 治療効果あり |
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スクレアフロアブル | マンデストロビン | 88 | QoI 剤 | 極高 | ※推奨使用回数に注意 スクレアフロアブルの混用事例 治療効果あり |
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ミギワ20フロアブル※1 | イプフルフェノキン | 87 | DHODH 阻害剤 | 中~高 | 推奨使用回数で年1回以下 | |
ストロビードライフロアブル | クレソキシムメチル | 84 | 12 | QoI 剤 | 極高 | ※推奨使用回数に注意 治療効果あり |
アクサ―フロアブル※1 | フルキサピロキサド・ジフェノコナゾール水和剤 | 84 | SDHI剤+DMI剤 | 中~高 | 治療効果あり DMI剤のスコア水和剤成分を含む薬剤 |
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アミスター10フロアブル | アゾキシストロビン | 83 | 10 | QoI 剤 | 極高 | ※推奨使用回数に注意 治療効果あり |
オキシラン水和剤 | キャブタン・有機銅剤 | 83 | 9 | 有機塩素系+有機銅 | 低 | 新葉に薬害 |
ジマンダイセン水和剤 | マンゼブ水和剤 | 82 | 有機硫黄系(ジチオカーバメート系) | 低 | 新葉に薬害 | |
ベルクート水和剤 | イミノクタジンアルベシル酸塩 | 80 | 12 | グアニジン系 | 低 | |
キャプレート水和剤 | キャプタン・ベノミル水和剤 | 80 | キャプタン+ベンゾイミダゾール系 | 高 | 治療効果あり | |
ユニックス顆粒水和剤47 | シプロジニル水和剤 | 80 | AP剤 | 中 | 治療効果あり | |
ポリベリン水和剤 | イミノクタジン酢酸塩・ポリオキシン水和剤 | 79 | グアニジン系+抗生物質 | 中 | 治療効果あり | |
アフェットフロアブル | ペンチオピラド | 77 | SDHI剤 | 中~高 | 同じ成分で原液の濃度が異なります。 ※推奨使用回数に注意 フルーツセイバーの混用事例 |
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フルーツセイバー | ペンチオピラド | 77 ※2 |
SDHI剤 | 中~高 | ||
ベルクートフロアブル | イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤 | 77 | グアニジン系 | 低 | ||
ファンタジスタ顆粒水和剤 | ピリベンカルブ | 77 | QoI 剤 | 極高 | 治療効果あり | |
フルピカフロアブル | メパニピリム水和剤 | 75 | AP剤 | 中 | 治療効果あり | |
ナリアWDG | ピラクロストロビン・ボスカリド | 74 | 14 | QoI 剤+SDHI剤 | 極高 | |
フロンサイド水和剤 | フルアジナム水和剤 | 74 | Qi阻害剤 | 低 | ||
オルフィンプラスフロアブル※1 | テブコナゾール・フルオピラム | 73 | DMI剤+SDHI剤 | 中~高 | DMI剤のオンリーワンフロアブル成分を含む薬剤 | |
ドキリンフロアブル | 有機銅水和剤 | 73 | 7 | 有機銅系 | 低 | |
オーソサイド水和剤80 | キャプタン水和剤 | 73 | 9 | 有機塩素系 | 低 | 新葉に薬害 |
71 | SDHI剤 | 中~高 | 生産終了 2023年10月有効期限品 |
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チオノックフロアブル(トレノックフロアブル) | チウラム水和剤 | 69 | 5 | 有機硫黄系 | 低 | 着果率の低下※4 |
68 | 有機硫黄系 | 中 | 生産終了 | |||
ビスダイセン水和剤 | ポリカーバメート水和剤 | 68 | 有機硫黄系 | 低 | ||
デランフロアブル※3 | ジチアノンフロアブル | 63 | その他 | 低 | ||
56 | 6 | 生産終了 | ||||
ベンレート水和剤 | ベノミル水和剤 | 37 | ベンゾイミダゾール系 | 高 | 治療効果あり |
・DMI剤は、エルゴステロール生合成阻害剤(EBI剤)です。
耐性菌の発生リスクの観点からDMI剤合算にて年間3回以内(年2回以内を目指す)とし、他系統の殺菌剤と混用することで耐性菌リスクを低減しての使用が推奨されています。
・AP剤は、アニリノピリミジン系剤のことです。
・QoI 剤は、ストロビルリン系剤のことです。
耐性菌の発生リスクの観点からQoI 剤合算にて年間2回以内の使用することが推奨されています。
・SDHI剤は、ボスカリドアニリド系剤のことです。
耐性菌の発生リスクの観点からSDHI剤合算にて年間2回以内の使用することが推奨されています。
・治療効果について
メーカー明記の他作用から治療効果があると推察されるものに記載しているため、誤りもあるかもしれません。
※12022年5月以降に追加記載したもの
新規農薬のため検証データが少なく誤差が大きい可能性の考慮が必要です。
※2平成30年度ナシ黒星病菌に対する薬剤感受性検定成績書において、防除価がスコア顆粒水和剤、スクレアフロアブル等より高い結果が示されました。試験データが少ないため数値を変更していませんが、本ページの効果数値より効果が高いことが見込まれます。
詳しくは、果樹栽培ナビ ブログ > フルーツセイバーが梨の黒星病に高い防除効果 2018年薬剤感受性検定成績(別ウィンドウで開きます)
※3デランフロアブルは、2019年3月に中国の化学工場爆発事故の影響により一時製品製造が出来なくなり、2020年の防除では製造・供給が再開されないことからデランフロアブルを用いない防除体系となしました。
2020年10月より再び出荷が再開され、2021年の防除より再び用いることができます。
詳しくは、果樹栽培ナビ ブログ > デランフロアブルが中国の工場爆発の影響で欠品状態。2020年の春の防除には間に合わないようです。(別ウィンドウで開きます)
※4チオノックフロアブル(トレノックフロアブル)使用による着果率低下の影響
チオラム剤である商品名:チオノックフロアブル・トレノックフロアブル(JA販売での商品名)の防除では、花粉の発芽率が低下することで着果率の影響があることが確認されています。
同剤の散布の着果率低下は、散布日当時が特に大きいため人工授粉当日。及び満開日当日での使用を避けて使用します。
詳しくは、果樹栽培ナビ ブログ > 梨の着果率がチオノックフロアブル(トレノックフロアブル)で低下。満開日と受粉作業日の使用はさける。(別ウィンドウで開きます)
・ナシ黒星病対策専門資料
・予防薬による防除は、ナシ黒星病の予防薬の防除効果・残効性・耐性菌発生リスク一覧表へ
・特効薬であるDMI剤は、ナシ黒星病のDMI剤の防除効果・残効性・耐性菌対策へ
・黒星病の治療剤は、黒星病殺菌剤の予防剤と治療剤へ
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