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果樹のハダニ類防除

 果樹のハダニ類の防除では、一度密集して発生すると生命力が強く繁殖も早いため防除が難しく大きな被害を出します。また、薬剤に対する抵抗性の獲得が早いため、不適切な使用は薬剤効果の低下を招きます。
 ハダニ類の薬剤防除では、使用する農薬(殺虫剤)ではステージ(卵、幼虫、成虫)による効果と殺虫作用による違いと認識することが必要となります。
 また、薬剤防除だけに頼らず環境(発生源となる下草の除草)や、ハダニ類の天敵を活用することも重要です。

果樹のハダニの防除体系

 ハダニの防除では従来より薬剤(殺ダニ剤)を主体とした防除体系が用いられています。しかし、薬剤防除では一部の作用による薬剤を除き、ハダニ類の薬剤抵抗性を獲得することが問題となっています。
 このため、新規開発される薬剤と新たな薬剤抵抗の獲得による効果低下が繰り返される状態となっています。
 ハダニ類の持続的で効果的な防除のためには、従来からの薬剤防除に加え、ハダニ類を発生を誘発しない環境防除。ハダニ類の天敵となるカブリダニ類(土着天敵)の活用。薬剤抵抗が発生し難い気門封鎖作用の薬剤の選択。作用の異なる薬剤のローテンション使用が重要です。

・ハダニの発生状況

 幹や枝の樹皮下で越冬し、気温が10℃前後で発育が始まります。
 3~10月に発生し、特に梅雨明けから25℃以上となる7~8月の高温乾燥条件下で繁殖が盛んになります。
 高温乾燥を好むため、雨が少ないとより多く繁殖します。
 ハダニ類は25~28℃くらいの温度で乾燥した状態であると、10日前後(卵期間2~3日、幼虫~若虫期間6~7日)で卵から成虫になります。

・梨に発生する主なハダニ類

 ・カンザワハダニ
 体長約0.5mm、暗赤色に暗色班部
 ・ナミハダニ
 隊長約0.6mm、淡黄・淡黄緑色の胸部に左右の大型の黒色ないし黒みど色の斑紋
カンザワハダニ
写真:カンザワハダニ

・通常の環境防除

 従来からの環境防除対策では、下草はハダニ類の発生源であり、下草の背丈が伸びることでハダニの繁殖し易くなります。また、下草が果樹棚近くまで伸びることで、果樹に這い上がり易くなります。
 また、下草で生息するハダニに対して薬剤防除による効果が低下します。下草で発生したハダニは、除草後に幹に這い上がり易くなります。
 近年の研究では、適正に管理された下草はハダニ類に天敵であるカブリダニ類(土着天敵)が繁殖することでハダニ類の発生が抑制されるとした研究データがあります。カブリダニ類の繁殖によるハダニ類の抑制は、 カブリダニ類に悪影響を与える殺虫剤を使用しないなど他の条件も必要となります。

天敵カブリダニ類(土着天敵)の活用

 ハダニ類の天敵であるカブリダニ類(土着天敵)は、下草で生息します。従来、下草があることはハダニ類の発生源とされ、除草の徹底が推奨されていました。しかし、近年の研究結果では下草があることでハダニ類の天敵であるカブリダニ類が繁殖することでハダニ類の発生が抑制されることがわかっています。
 下草はカブリダニ類の生息場所や餌の供給源となります。また、殺虫剤などの薬剤散布においての避難場所となるだけでなく、高湿度を好むカブリダニ類を乾燥からも守り保護します。
 土着天敵を活用した対策は、環境負荷が小さく、持続可能な農業に重要です。

・草生管理

 下草は害虫のハダニ類だけでなく天敵であるカブリダニ類も繁殖することで、結果としてハダニ類に繁殖を抑制します。しかし、下草を無除草など放置して繁茂すると景観を損なうだけでなく、作業の障害となります。また、ハダニ類以外の害虫の温床となるため適正な管理が必要となります。
 草丈の維持では自走式草刈機で刈高の最高位が約8cm程度であるため、8~20cm適度の草丈で維持することがカブリダニ類を保全と果樹園内の景観や作業性の観点から現実的です。
 草生管理では下草の草丈維持することが重要ですが、自然草生では頻繁に草刈りが必要となるなど労力が大きく必要となります。
 草丈が維持し易く抑草性のあるクローバ等のカバープランツを導入する。カブリダニ類が好む草種の導入や、自生する草種の保全により草種を整え管理を行います。
 果樹の栽培方法、例えば「有機肥料の多用により定期的にトラクター等による土壌撹拌を行う」などでは、カバープランツを導入しても、土壌撹拌により駆逐されるなど草生管理が難しいケースもあります。カブリダニ類の活用や、カバープランツの導入には栽培環境に沿った判断が必要となります。

・果樹に利用されるカバープランツ
 ・ナギナタガヤ
 ・アニュアルライグラス
 ・クローバー、ホワイトクローバ
 ・ヘアリーベッチ など

・カブリダニ類(土着天敵)を考慮した薬剤選択

 カブリダニ類は薬剤散布による影響を大きく受けます。このため、カブリダニ類が繁殖とハダニ類へ抑制を特に期待する時期(6~9月)では悪影響の大きい薬剤の使用を控えます。
特に悪影響が大きい:
・合成ピレスロイド剤
 アグロスリン、アディオン、スカウト、テルスター、マブリック、ロディー
悪影響が大きい:
・有機リン系殺虫剤
 エルサン、サイアノックス、スミチオン、スプラサイド、ダイアジノン、ダーズバン、マラソン
・スピノシン系殺虫剤
 ディアナ、スピノエース
・無機・有機硫黄系殺菌剤
 石灰硫黄合剤、ボルドー液
・殺ダニ剤
 カネマイトフロアブル、コロマイト乳剤、マイトコーネフロアブル

悪影響が小さい:
・殺虫剤
 アクタラ顆粒水溶剤、アプロードフロアブル、アルバリン顆粒水溶剤 、ウララDF、エクシレルSE 、コルト顆粒水和剤、サムコルフロアブル、デミリン水和剤、デルフィン顆粒水和剤、ノーモルト乳剤、バリアード顆粒水和剤、フェニックス顆粒水和剤
・殺ダニ剤
 スターマイトフロアブル、ダニコングフロアブル、ダニサラバフロアブル

カブリダニ類を活用する草生管理の問題

 果樹栽培においてハダニ類の天敵であるカブリダニ類(土着天敵)を活用するための下草を残す草生管理等による栽培方法では栽培環境により様々な問題が発生し、実際に取り入れるためには栽培方法の見直しや代替方法の検討が必要となります。

薬剤防除

 ハダニ類は化学合成殺ダニ剤(殺ダニ剤)に対する薬剤抵抗性の発達しやすい害虫です。既に薬剤抵抗により効果が大きく低下した薬剤も確認されています。
 薬剤抵抗性の獲得を意識した薬剤選択と使用が持続可能な農業に必要となります。

・薬剤抵抗性が発達しやすいとされる原因

・ハダニ類の行動範囲が狭く、隔離された集団で薬剤の淘汰を受けた均質な集団になりやすい。
・発育日数が短く、発生回数が多いため、薬剤の淘汰を受ける機会が多くなる。
・ハダニ類の性決定は単数倍数性なので、抵抗性遺伝子を持つ雄との交雑で 抵抗性が発達しやすい。
・ハダニ類の行動習性として近親交配が行われやすい。

・薬剤抵抗性の獲得を意識した薬剤選択と使用(薬剤抵抗性発達の遅延対策)

・ローテーション使用
 同一薬剤(同一系統)の薬剤を最低でも同一年度内に使用しないことを原則とし、作用機構が異なる複数の殺ダニ剤のローテーション使用を行う。
 同一薬剤(同一系統)の薬剤使用では、薬剤抵抗性発達の遅延条件として「抵抗性の欠如」と「未使用期間中に感受性回復」が基礎条件であるため、再使用までの間隔は数年単位など長いほど良い。

・気門封鎖作用の殺ダニ剤の使用
 気門封鎖作用の殺ダニ剤は薬剤抵抗性が発現し難いとされ、連続散布することができます。
 気門封鎖作用の殺ダニ剤をローテンション散布に含めることで、他の殺ダニ剤による薬剤抵抗性の発達過程にあるハダニを駆除し、抵抗性の欠如に貢献します。
 しかし、基本的に気門封鎖作用の殺ダニ剤は残効性がなく、殺卵効果が期待できないものもあります。更に浸透移行性がないなど、薬剤の散布量の不足や散布ムラによる効果の低下が顕著に現れます。
 気門封鎖作用による殺ダニ剤で十分な効果を得るには、通常の薬剤散布以上に十分な量を散布し、散布ムラが少なくなるようSS(スピードスプレイヤー)の走行経路を工夫する。1回目散布時に卵であったハダニ類が成虫とり産卵前でる5~7日後に連続散布を行うことが重要となります。


殺ダニ剤の薬剤効果

 殺ダニ剤による薬剤防除では、ステージ(卵、幼虫、成虫)による効果。殺虫作用。残効性の有無。淡黄緑色ナミハダニは効果が低いなど様々な違いから選択が難しい防除です。
 更に薬剤抵抗性が発達し易いことから、使用においても注意した薬剤選択が必要となります。

ナミハダニの農薬による駆除

 ナミハダニはハダニ類の中でも特に薬剤抵抗性が発達し易く、増殖能力も高いため特に薬剤防除(農薬による駆除)が難しい害虫です。多発後の薬剤防除は効果が低下するため、更なる薬剤抵抗性が発達する原因となります。殺ダニ剤に有機リン系殺虫剤や気門封鎖剤による混用を行うことで防除効果が高くなります。


果樹のハダニ類防除
 ・草生管理での弊害は、カブリダニ類を活用する草生管理の問題
  ・殺ダニ剤の使用は、殺ダニ剤の薬剤効果
   ・難害虫のナミハダニは、ナミハダニの農薬による駆除

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