スピードスプレーヤーの散布方法

 スピードスプレーヤー(以下、SS)を使用した薬剤散布では、スプレーヤーの付着特性により散布走行と方向で付着量が場所により異なります。
 薬剤の散布斑を防ぎ、効果的な防除方法を得るためには散布特性を理解した走行経路が必要となります。
・薬剤付着特性
1.SSの送付機により強風域(SS直上など)では薬剤付着量は少なくなる。
2.SSの送付機により送風勢いが弱くなった箇所で薬剤付着量は多くなる。また、葉の表面に多く薬剤付着する。
3.SSの走行の直上では、葉の裏面全面に薬剤付着する。葉の表面は薬剤付着が少なくなる。
4.SS進行方向に相対する面の全面に薬剤付着する。その逆(裏面)は、薬剤付着の斑が出易いくなる。
5.噴霧圧力を大きくすると、噴霧粒子は小さくなる。噴霧圧力を小さくすると、噴霧粒子は大きくなる。
6.噴霧圧力を大きくすると散布量が増えるが、風による影響が大きくなりドリフト量が増加する。
7.噴霧圧力を小さくすると散布量が減るが、風による影響が小さくドリフト量が減少する。

・薬剤付着特性を緩和する手法
a.1の強風域となるSSの直上の薬剤付着を多くするには、SS上方噴霧ノズルに装着する制風板がオプションとして市販されています。
b.1の強風域を緩和するとき、春先などの徒長枝や葉が少ない時にはエンジン回転数を落として送風機の風を弱めることで上方への薬剤付着が多くなります。
c.4のSS走行から裏面となる箇所の薬剤付着の斑を減らすため、隣合う列の走行では進行方向が逆になるようにすることで軽減できます。また、完全に無風状態での散布であると影響が少なくなる。
d.567では、噴霧ノズルの穴径を変えることで散布量を減らさずに噴霧粒子の大きさを変化せることが出来る。また、立地条件からドリフト量を減らす必要があるとき、ドリフト軽減ノズルが市販されている。

スピードスプレーヤーの薬剤付着モデル

1列のみ走行した時の薬剤付着モデル


1列走行した時の薬剤付着モデル1列間を空けて走行した時の薬剤付着モデル
間を空けて走行した時の薬剤付着モデル
(色の濃い箇所の薬剤付着が多いイメージ)
Aの箇所:
 薬剤付着特性1・3により薬剤は葉の裏面を中心に付着するが、葉の表面に対する付着量が特に少ない。また、全体として薬剤付着量が少ない傾向にある。
Bの箇所:
 薬剤付着特性2により薬剤は葉の表面に付着する。また、全体として薬剤付着量が多い傾向にあるが、葉の裏面に対する付着は少ない。
・走行方向に対する薬剤付着モデル
 走行方向に対する薬剤付着モデル
(色の濃い箇所の薬剤付着が多いイメージ)
 薬剤付着特性4により、SSの進行方向に相対する面は、薬剤が全面に付着するが、裏側に当たる面に薬剤が付着しない斑が出易いくなる

スピードスプレーヤーによる散布経路選択方法

・走行経路選択のポイント
・全列走行による散布
 薬剤付着特性を考慮し、全ての列を走行する経路を選択する。
 薬剤を節約する時、走行速度の加速や散布量を減らしでも全列走行を実施する。
・果樹両側の異なる方向による散布
 SS進行方向に対する付着特性を考慮し、互い違いにSSを走行させる。
・両側から散布できない時の往復散布
 防風ネット等の設備により両側走行できない時、SSを往復走行させる。往復する時、SSからの異なる角度による散布を行う。
・風による影響の考慮
 防除作業において風による影響があるとき、果樹の風上面に薬剤が付着が多く、風下面に薬剤付着少ない。SSの走行経路と方向により風による付着影響を補う。

スピードスプレーヤーの走行経路モデル

スピードスプレーヤーの走行経路モデル
①~⑪:走行順路(2回目は⑪→①、3回目は①→⑪を交互に実施する。)
⑨⑩⑪:上方及び果樹側のみ散布ノズルを開く
⑨⑩⑪以外:全方位散布
二重線:果樹園を囲む防風ネット等
主なポイント
・全列走行の実施
・②⑧は、通路の両端を走行することで薬剤付着の少ないSS上部に対して、可能な限り斜め方向からの薬剤散布面積が多くなるようにしている。
・①と⑨、②と⑧、⑥と⑪、⑦と⑩は往路の方向を反対にすることで進行方向による薬剤付着斑を防止している。①⑥⑦の全方位散布の時、果樹寄った地点を走行。⑨⑩⑪の上方及び果樹側のみ散布の時、果樹から可能な限り離れた地点を走行することで、散布角度を変えて薬剤の付着斑を防いでいる。

風による影響と送風機の出力との関係

 SSの防除においては、風により影響を受けやすいため可能な限り無風状態での散布が望ましいとされています。しかし、実際の防除においては、風のない無風状態での散布は難しく、ある程度風がある状態での散布が不可欠となります。

・SSの進行方向に対して追い風となる時
 SSの使用において、追い風での使用は向かい風と比較して推奨されています。主な影響として、
 a.薬剤散布範囲が広がる
 b.風上面の薬剤付着が多く、風下面の薬剤付着が少なくなる

・SSの進行方向に対して向かい風となる時
 c.薬剤の粒子大きくなる。
 d.SS送風機による出力範囲までは影響は小さいが、出力範囲を超えると付着面は風による偏りを受ける

・SS送風機の出力が大きい時
 出力が大きいと、風による影響を受けにくく、薬剤の到達範囲が広い。
 しかし、送風機による強風域では薬剤の定着量が少なく、散布面も片面(葉の裏。枝の裏など)に偏りがおきる。

・SS送風機の出力が小さい時
 出力が小さいと、風による影響を大きく受け、薬剤の到達範囲が狭い。
 しかし、薬剤の定着量が多く、散布面も偏りが少なくなる。


噴霧圧力・走行速度・薬剤散布量と黒星病の発病率

 SS前列走行による薬剤防除による薬剤の付着斑を防止しても、適切な速度による走行による必要な散布量がなければ、十分な効果を得ることができません。
全列走行
圧力
Mpa
速度
km/h
散布量
ℓ/10a
発病率%
5/22
発病率%
6/11
2.0 3.8 290 0.5 19.0
1.5 2.7 330 0.3 11.6
2.0 2.7 400 0.2 6.4
2.0 1.7 600 0.2 6.4
1列おき走行
2.0 1.7 300 3.8SS道上
1.0SS道間
36.8道上
15.4道間
無散布 - - 13.3 56.6
4/9、4/22にスコア水和剤を散布
参考資料:
佐賀県農林水産部 果樹試験場
「開花期前後のナシ黒星病対策」2017年3月号 内
  スピードスプレイヤーの走行の違いがナシ黒星病の発病におよぼす影響  (2003 年 佐賀果樹試)

 表において、全列走行で400ℓ/10aの散布により発病率が低く、もっとも低い発病率となる防除効果となっています。
 全列走行による散布斑だけでなく、十分な散布量を行うことで薬剤付着が向上し、黒星病における発病率が低下します。


スピードスプレイヤーによる効果的な防除方法
 ・薬剤撹拌や散布性能を発揮させる使用方法は、スピードスプレーヤーの使い方
  ・薬剤付着特性を考慮した薬剤散布方法は、スピードスプレーヤーの散布方法
   ・薬剤の付着(定着)状況は、農薬の付着(定着)の状況
    ・薬剤散布ムラを防ぐためのチェック項目は、スピードスプレーヤーによる散布ムラ防止


スピードスプレーヤーのメンテナンス方法については、
姉妹サイト:農業機械メンテナンスナビ>スピードスプレイヤーのメンテナンス方法 にて紹介しています。(新規ページで開きます。)

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