梨のみつ症の原因と対策方法
主に豊水梨に発症が多く、果肉の一部が半透明の水浸状となるがみつ症です。みつ症はリンゴにも表れる生理障害です。みつ症は果肉が水浸状となり果肉が柔らかくなることで歯ごたえとなる(シャキシャキとした)食感は失われるため、食味が大きく低下します。軽度であれば食べることができますが、品質と日持ちが悪くなるだけでなく、外観で判断し難いため商品化に大きな支障がある症状です。
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産地ではその果汁をジュースやゼリーといった加工品として活用されています。
・名称
学術名称:カルシウム欠乏症
一般名称:みつ症 または、蜜症
・発症の多い品種
豊水、新高 など
・基本的な発生原因と発生条件
保水性が低く、乾燥し易い果樹園で発生し易い。また、果樹の根が機能低下することでカルシウムの吸収と果実への移行が悪いと発症しやすい。
気象影響:冷夏、梅雨の長雨、7月の乾燥、8月の急激な高温と乾燥。9月の多雨 などに発症し易い。
・対策方法
・適期収穫
やや過熟となると発症が多くなるため、早期収穫を行うことで低減されます。
・遮光処理
直射日光に長時間曝され、高温となる果実に発症し易い。新梢や葉による日陰の利用。その他、果実への遮光処理により低減されます。
・カルシウム資材散布
塩化カルシウムを含む液化肥料。及び薬剤の葉への散布により発症が低減されます。しかし、糖度が低下し、果実肥大が抑制されます。
・根の活性化
有機肥料の使用、深耕による土壌改良(根への酸素と有機分の補給)による根の活性化により低減されます。
・土壌の乾燥防止
夏季の灌水(散水)による土壌の乾燥防止。敷き藁やもみ殻による地表面の過剰な乾燥防止をすることで低減されます。
・機能性果実袋による有袋栽培
赤外線を遮断、反射率の高いチタンコーティング処理された果実袋を使用することで果実温度の上昇が抑制され、発症が低減されます。
・みつ症に関する研究による明らかなとっている発症要因
<増加要因>
・満開80~100 日後の気温が低いほど増加する。
・強度な摘果を行った過少着果区で多発する。
・果実被覆処理によってみつ症が多く発生することから、果実が高温となると発症が助長される。
・断根を伴う土壌改良や過剰な施肥が発症を助長する。
・樹勢が強いとみつ症が多く発生する。
・成熟促進剤処理(エテホン、ジベレリン)により発症が助長される。
<抑制要因>
・炭酸カルシウム剤の散布により発症を抑制する。
・樹勢の強い樹では、 摘葉処理より発症は抑制される。
これまで研究において、みつ症発症に関する決定的な原因や遺伝子情報は特定されておらず、現在でも研究や試験が行われています。一方、みつ症の発症が特に多い品種「豊水」について、同時期に収穫される「あきづき」や「南水」の栽培拡大により栽培量の減少すると見込まれることから、みつ症に関する研究についても今後減少することも予想されます。
みつ症・蜜症(生理障害)の梨
・みつ症を発症した豊水梨 赤〇で囲った部分の果実皮の色が濃く、果実が柔らかくなっています。 軽度では外観から見た目による判別がし難い状態です。 |
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・みつ症を発症した断面 果肉が半透明となり、柔らかくなっています。 果肉部分は糖度が極端に高いことや低い場合。食感の他、風味が極端に悪い等同じみつ症の梨でも大きな個体差があります。 |
みつ症に関する管理人の考察
本ページは、管理人の隣接し栽培環境が非常に近い産地において豊水梨の「みつ症」が異常多発したことにより、その原因等を確認するために調べて内容を元に紹介しています。当果樹園では、環境条件の近い隣接する産地において「みつ症」が異常多発した年でも「みつ症」の異常多発はありませんでした。しかし、隣接する産地で発生したことにより、当果樹園でもいつ同様の被害に見舞われるかは予断を許しません。
これまでの経験と当果樹園の設備及び環境を比較し、みつ症の発生に次のような要因や事実を確認しています。
・成熟促進剤処(ジベレリン)を使用すると「みつ症」が増加する。
みつ症の発症が少ないとされる幸水梨において、成熟促進剤処(ジベレリン)を使用すると稀にみつ症が発症する。
・直射日光に極端に曝される果実は「みつ症」が増加する。
枝の上側に着果し、葉や新梢など日を遮るものがない果実は、日焼け(赤茶け)し、みつ症の発症率も高くなる。
・みつ症の発症状況の変化
当果樹園におけるみつ症の発症は、例年一定数が発生しますが発生率でみると大きな変化はおきていない。
発症率としては豊水梨で1%以下が維持されています。
隣接している産地で異常多発があっても発症状況は同様でした。
・地理的要因からの考察
当果樹園と比較産地では、共に平野に属し海抜が低い。海からの距離も近く、海陸風(特に海風)の影響を受ける地域です。このため、夏季における日中の気温上昇は、海風の影響により内陸の盆地と比較して緩やかです。また、海に近いといっても、塩分を含む潮風の影響はない地域であることが共通しています。
このことから、海に関する要因によりみつ症への影響がないことが推察されます。
・気象観測からの考察
当果樹園と比較産地における気象観測結果では、共に7月の多雨。8月の気温、日照量において大きな差はなかった。
8月の降雨量では、発症が多かった比較産地において降雨が多く、当果樹園の2倍程度降雨があった。みつ症の発症が多くなるとされる8月の乾燥に反し、雨量の多い観測結果であった。
このことから、当果樹園と比較産地とのみつ症の発症状況の差は、地域差による気象条件による影響が小さいと推察されます。
・栽培環境からの考察
地理的要因と気象要因による発症原因を否定すると、栽培方法等による要因であることが推察されることから、比較が難しい内容までを考察対象に加えます。
・地質の違い
当果樹園と比較産地は共の平地であり整備された農業用地です。しかし、地質まで考慮すると、当果樹園は海抜がより低く、粘土質が幾分多いことから保湿性が高いことが推察されます。
・果実袋の使用
当果樹園は全果実を対象としてみつ症を助長するとされる有袋栽培を行っています。しかし、発症率が低く維持されていることから、みつ症の発症を抑制する大きな要因があることが予想されます。
・果樹の根の機能に関する要因
当果樹園は断根処理を実施しておらず、この他で特筆すべき要因としては、白紋羽病とトラクターに関する二点があります。
①紋羽病に関すること
当果樹園では、栽培開始以来根の樹勢を大きく低下させる病気である白紋羽病が果樹の生育に影響を与える程の大きな発生をしたことがなく、根を弱らせる白紋羽病の影響が小さいと言えます。
②トラクターに関すること
当果樹園は有機肥料を使用とトラクターによる土壌撹拌による土壌改良を例年実施しています。果樹園内でのトラクターの使用については、根を切断する。地表が荒れるなど理由により、過去より賛否がある利用方法です。このため梨の果樹園でトラクターによる耕うん作業は行っていない果樹園も多くあります。比較地域でもトラクターを使用しない果樹園が一定数あることが見込まれます。
トラクターによる土壌撹拌は土壌内に空気と有機分を取り込むことが出来ることから根を活性化するとされています。
また、例年トラクターを使用することで耕うん範囲に太い果樹根はなく、断根処理となる太さの根の切断までは行われていないと考えられます。
・考察の結果
単年度で多発地域の違いについて比較考慮すると、地質による保湿力違いが大きい可能性があります。
しかし、例年低い発症率を維持していることを考慮すると、地質による保湿力や灌水設備の利用では説明できない点が多く残ります。
そこで、原因の一つであるカルシウムの吸収と果実への移行が悪い点に着目すると、当果樹園の果樹の根の樹勢が強く健全であるため、カルシウムの吸収と果実への移行が良いのではないか?と予想することができます。しかし、根の発育状況について単純に比較測定する方法がなく、確認方法がないのが現状です。
今後、「みつ症」が発症した果実が実る木の状況を観察し、発症条件との関係性をより深く確認したいと思います。
環境の地理的要因:
当果樹園と比較産地との距離 | 20~30km |
当果樹園 | 比較産地(異常多発した産地) | |
海からの距離 | 3km | 4~7km |
標高(海抜) | 0m | 20~30m |
付近のアメダス気象観測情報:
気圧(hPa) | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | |
共通観測情報 | 1007.5 | 1003.6 | 1004.5 | 1007.2 | |
降水量(mm) | 降水量合計 | ||||
当果樹園 | 54.5 | 184.5 | 446.0 | 52.5 | 1210.0 |
比較産地 | 42.5 | 296.0 | 445.0 | 119.5 | 903.0 |
気温(℃) | |||||
当果樹園 | 17.3 | 22.1 | 23.5 | 27.6 | |
比較産地 | 18.5 | 23.2 | 24.3 | 28.9 | |
日照時間(h) | 日射時間合計 | ||||
当果樹園 | 197.0 | 193.7 | 71.6 | 247.6 | 709.9 |
比較産地 | 200.3 | 198.0 | 69.5 | 252.0 | 719.8 |
栽培環境の情報:
当果樹園 | 比較産地 | |
灌水設備 | ポンプによる農業用水道設備 | 用水路による設備 |
果樹袋 | 通常の果実袋による有袋栽培 | 無袋栽培 |
基礎土壌環境 | 粘度質を含む土壌の平野 | 河川による堆積平野 |
樹勢調整のための断根処理 | なし | 不明(果樹園毎による) |
みつ症に関する対策資料集・参考文献(外部リンク) 2023年9月更新 |
機能性果実袋による有袋栽培に関する資料 |
・ナシの高温障害果を減らすことを目指して:中央西農業振興センター 高知農業改良普及所 https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/info/dtl.php?ID=8038 赤外線反射率の高いチタンコーティング果実袋を使用した資料です。 |
・19.機能性果実袋の被袋はナシ「新高」の果肉障害を抑制する:岡山県農林水産総合センター農業研究所 https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/502548_3749738_misc.pdf 赤外線反射率の高いチタンコーティング果実袋を使用した資料です。 |
カルシウム資材散布に関する資料 |
・カルシウム資材散布による日本ナシ「豊水」のみつ症防止効果:アグリサーチャー https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/221487 豊水梨にカルシウム資材を葉面散布さた効果にについての資料です。 |
みつ症発生条件等の関する資料 |
・ニホンナシ“豊水”におけるみつ症発生に係わる栽培要因の解明に関する研究 著者:博士(農学) 佐久間 文雄 代替えリンク:https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010652147 |
・ニホンナシ'豊水'のみつ症の発生条件の解明に関する研究 著者:猪俣 雄司, 村瀬 昭治, 長柄 稔, 篠川 〓雄, 及川 悟, 鈴木 邦彦 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/62/2/62_2_257/_pdf/-char/ja |
・ニホンナシ'豊水'のみつ症発生に及ぼす被袋, 炭酸カルシウム剤処理及び果実 : 外気温の差の影響 著者:猪俣 雄司, 八重垣 英明, 鈴木 邦彦 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/68/2/68_2_336/_pdf/-char/ja |
・ニホンナシの果肉障害発生とこれまでの研究成果:鳥取大学農学部 田村文男 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/16/4/16_373/_pdf みつ症を含む果肉障害に関する研究成果のまとめです。 |
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