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ナシ黒星病の予防薬の防除効果・残効性・耐性菌発生リスク 

 梨に黒星病の特効薬として使用されるエルゴステロール生合成阻害剤は、非常に効果的な効果(防除価)がある反面、耐性菌に対する懸念が大きい薬剤です。効果及び耐性菌対策に用いる混用の一覧表です。

・DMI剤(EBI剤)
 DMI剤は、梨の黒星病に対する非常に大きな効果がある反面、同一系統の成分であるため常に大きな耐性菌発生リスクが伴います。また、これに代わる効果的な薬剤は存在しないため、耐性菌発生リスクの管理が非常に重要です。
 使用回数は、DMI剤の種類を問わず合計で年3回以下(年2回以内を目指す)に留め、使用では他系統の殺菌剤との混用により耐性菌リスクを低減しての使用が推奨されています。

・表記する値について
 各薬剤の効果と残効期間は、個別に公表されている試験データの中から、近い条件で行われたデータをベンチマークとして、全体を指標化したものです。
 同一条件で実験された結果ではなく、あくまで目安として参考にして下さい。なお、使用する時期による梨の各ステージおける感受性の違いでも実際の効果には差があります。
 近年、薬剤耐性菌の発生状況が地域毎に大きく差があるため、実際の防除効果にも地域差があります。

DMI剤の効果一覧表

商 品 名 成 分 名 効果 残効
期間
種  別 耐性菌
発生リスク
備 考
アンビルフロアブル ヘキサコナゾール水和剤 90 18 DMI剤 極高  
スコア水和剤10※1 ジフェノコナゾール 86 18 DMI剤 極高 アクサ―フロアブルに同一成分を含む
インダーフロアブル
 5,000倍
フェンブコナゾール 84 20 DMI剤 極高  
インダーフロアブル
 10,000倍
フェンブコナゾール 82 20 DMI剤 極高  
マネージ水和剤※2 イミベンコナゾール 75 14 DMI剤 極高  
オーシャイン水和剤 オキスポコナゾールフマル酸塩水和剤 71   DMI剤 極高  
オンリーワンフロアブル デブコナゾール水和剤 67   DMI剤 極高 オルフィンプラスフロアブルに同一成分を含む
 DMI剤における薬剤耐性菌発生リスクは、植物病理学上では「中」と評価されています。しかし、梨栽培においては代替となる効果的な成分が発見されていないため、耐性菌の発生が最も警戒されているため、耐性菌リスクを「極高」と評価しています。
 耐性菌対策としてDMI剤の使用回数は、同一薬剤は使用せず合算で年3回以下(年2回以内を目指す)とされています。
 DMI剤の成分を含むアクサーフロアブル、オルフィンプラスフロアブルを使用している場合、合算使用回数に注意が必要です。
※1 スコア水和剤の効果について
 表ではアンビルフロアブルより低い効果となっており他のデータや実際の使用感に差があります。しかし、あえてそのまま表記しています。通常、効果で比較したときアンビルフロアブルよりスコア水和剤の効果が大きいとされています。
※2 マネージDF(マネージドライフロアブル)の欠品・廃盤について
 マネージDFは、2017年よりホームセンター及び一般の農業資材販売店に流通していたMeiji Seika ファルマ株式会社での取扱が終了、欠品・廃盤となっています。しかし、北興化学から同一製品がJAを通じた販売で継続しています。
 2020年より廃盤となっていませんが、北興化学からの販売分において生産が一時停止。2021年春の時点で、再開・再販の目途が不明となっています。2022年販売が再開され防除に使用可能となりました。

・DMI剤と予防薬の混用による組合せ
 DMI剤に予防薬を混用することで、単に予防効果を高めるだけでなく、耐性菌発生リスクを低下させることができると期待されています。
 混用でき防除効果の向上が確認されている予防薬の種類が少ないため、混用に主に用いるベルクート水和剤は出来るだけ単体で予防薬として使用することを避け、混用時を中心に使用します。
DMI剤 商品名 予防薬 商品名 効果 残効
期間
種  別 耐性菌
発生リスク
備 考
アンビルフロアブル + ベルクート水和剤 112 18 DMI剤+グアニジン系 DMI剤
合算で年3回以下 
アンビルフロアブル + ユニックス顆粒水和剤 118   DMI剤+アニリノピリミジン系
インダーフロアブル
 10,000倍
+ ベルクート水和剤 109   DMI剤+グアニジン系
マネージ水和剤 + ベルクート水和剤 110 18 DMI剤+グアニジン系
スコア(顆粒)水和剤 + ベルクート水和剤 120 20 DMI剤+グアニジン系
スコア顆粒水和剤 + トレノックスフロアブル(チオノックフロアブル)※4 115   DMI剤+有機硫黄系

・DMI剤+予防薬の2剤混合の既製品
 DMI剤に予防薬の2剤混合された既製品。新規有効成分が混用されていることにより、薬剤効果だけでなく耐性菌管理にも有効な薬剤です。
商 品 名 成 分 名 効果 残効
期間
種  別 耐性菌
発生リスク
備 考
アクサ―フロアブル※1 フルキサピロキサド・ジフェノコナゾール水和剤 87 SDHI剤+DMI剤 中~高 治療効果あり
DMI剤のスコア(顆粒)水和剤成分を含む薬剤
オルフィンプラスフロアブル※1 テブコナゾール・フルオピラム  82   DMI剤+SDHI剤  中~高 DMI剤のオンリーワンフロアブル成分を含む薬剤 
 DMI剤+予防薬の2剤混合された既製品は新しい薬剤であるため、効果数値は既に発生した耐性菌による影響を大きく受けるため他の表の値と大きく異なる数字で記載しています。例えば、アクサ―フロアブルでは、スコア(顆粒)水和剤より高い防除効果を示します。しかし、その乖離する値はスコア(顆粒)水和剤に対する耐性菌の発生状況により大きく差があるため新規農薬での感受性検定等による値を参考に記載しています。

・QoI剤+予防薬
 防除効果が高いが、耐性菌リスクの大きいQoi剤においてもDMI剤と同様に予防薬を混用することで、単に予防効果を高めるだけでなく、耐性菌発生リスクを低下させることができると期待されています。
 しかし、ナシの防除におけるQoI剤と予防薬の試験データー等についての資料は少ないため、参考として2015年に新規登録され高い防除効果があるスクレアフロアブルと予防薬との混用効果です。
QoI剤 商品名 予防薬 商品名 効果 残効
期間
種  別 耐性菌
発生リスク
備 考
スクレアロアブル 単剤での参考値 88    QoI剤   高 QoI剤
合算で年2回以下
スクレアロアブル + ベルクート水和剤 123 18 QoI剤+グアニジン系
スクレアロアブル   + トレノックスフロアブル(チオノックフロアブル) 97   QoI剤+有機硫黄系
※4チオノックフロアブル(トレノックフロアブル)使用による着果率低下の影響
 チオラム剤である商品名:チオノックフロアブル・トレノックフロアブル(JA販売での商品名)の防除では、花粉の発芽率が低下することで着果率の影響があることが確認されています。
 同剤の散布の着果率低下は、散布日当時が特に大きいため人工授粉当日。及び満開日当日での使用を避けて使用します。
 詳しくは、果樹栽培ナビ ブログ > 梨の着果率がチオノックフロアブル(トレノックフロアブル)で低下。満開日と受粉作業日の使用はさける。(別ウィンドウで開きます)

・薬剤の成分種別で用いられる略称について
 ・DMI剤は、エルゴステロール生合成阻害剤(EBI剤)です。
 ・AP剤は、アニリノピリミジン系剤のことです。
 ・QoI 剤は、ストロビルリン系剤のことです。
 ・SDHI剤は、ボスカリドアニリド系剤のことです。

・有用なDMI剤と予防薬の混例事例
 ・アンビルフロアブル、インダーフロアブル、オーシャイン水和剤、オンリーワンフロアブル、スコア顆粒水和剤、マネージドライフロアブル、+チウラム剤(チオノックフロアブル・トレノックスフロアブル)
 DMI剤とチウラム剤を組み合わせることで耐性菌対策と相乗効果により防除価の向上。心腐れ症対策に効果が期待できます。

 ・アンビルフロアブル、インダーフロアブル、オーシャイン水和剤、マネージドライフロアブル+アフェットフロアブル(SDHI剤)
 DMI剤と系統の異なるSDHI剤を組み合わせることで耐性菌対策と相乗効果により防除価の向上が期待できます。

 ・ベルクート水和剤をベルクートフロアブルとする場合、計量に手間が減る一方で有効成分の濃度の違いから効果が低下します。また、混用事例による影響の結果は必ずしも同一ではなく、混用事例が確認されていない組み合わせもあります。


 この他、防除価が高く耐性菌リスクの高いDMI剤・QOI剤と予防薬の混用事例については、ナシの混用事例 DMI剤+殺菌剤(予防薬)

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