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梨の受粉・人工授粉方法

 果樹の花が確実に結実するように受粉作業を行います。
 受粉作業には、人の手で行う人工授粉とミツバチ等の昆虫を用いて自然受粉を促進させて行う方法があります。また、単に花粉が受粉する(雌蕊に付く)だけでなく、結実に至る為の受精し易い環境に整えます。

自然受粉

 ミツバチを代表する昆虫等による花粉交配を受粉(自然受粉)といいます。通常、開花時期に好天に恵まれると昆虫が活発に活動し、花蜜や花粉を収集する昆虫が飛び交うことで花粉交配が行われ受粉が行われます。
 自然受粉では実際の交配作業を昆虫が担うため作業負担が少ない大きな利点があります。
 しかし、開花時期の天候による影響が特に大きく、自家結実しない果実では花粉樹となる異品種が周囲にないと結実することができません。

・受粉を行う昆虫「送粉者」
 ミツバチに代表される受粉を行う昆虫などを「送粉者」といいます。
 果樹等で活躍する主な「送粉者」:
 ハナバチ類(ミツバチ、クマバチ、マルハナバチなど)、アブ(訪花性のハナアブ)など

・自然受粉の促進
 効率よく受粉と結実するよう周囲に花粉樹となる異品種を用意します。
 また、受粉を行う「送粉者」を多くするため本職であればミツバチ(巣箱)の購入やレンタルを行います。
 開花時期にはミツバチを含む「送粉者」となる昆虫が活発に活動できるよう農薬(殺虫剤)の使用を控えます。

・異品種の準備
 周囲で複数品種を栽培する方法が最も確実な方法です。鉢植えであれば、周囲に移動させるだけでも効率が良くなります。しかし、環境により複数の栽培が出来ないとき、次のような方法もあります。
 方法1:1本の果樹に異品種の枝を一振り、接木し開花させる。
 方法2:受粉時期に、異品種の枝を果樹の根元に置く。(ビンやバケツなどに差し、開花さえすれば受粉が可能です。)

・送粉者虫の準備
 受粉を行う虫として広く利用され、認知されているがミツバチです。
 ミツバチは管理が比較的容易であり巣箱の購入やレンタルにより飼うことが出来ます。
 ミツバチがいない場合でもミツバチ以外の多くの昆虫が受粉を行います。アブの特定の種類や、春に果樹の花付近に飛び交っている数ミリ程度の小さい虫も受粉を行いますので、大切に歓迎しましょう。

人工授粉

 人工授粉は、言葉の通り人の手により受粉させ結実させます。本職では、花粉の購入やを予め花粉を採取して受粉させます。花粉を容易に準備出来ない場合では、異品種の開花したした花を利用(花を押し当てる)するだけで授粉することができます。

・花による人工授粉の方法
 受粉させるには花粉がつき交配すれば良いので、異品種の開花した花(開花直前の花でも可)をとり、結実させたい花に押し付けるようにして交配させれば、受粉が出来ます。
 品種により開花時期が異なる果樹の場合、結実させたい側が開花していれば、異品種(授粉側)が開花前でも花びらをめくって無理やり受粉させても結実がさせることができます。

受粉し結実するための条件

 花粉を雌蕊に付着させても、花粉が正常に発芽して花粉管が伸長しなければ受精することが出来ず、結実に至ることは出来ません。梨では受粉から受精に至るまでは3時間程かかるため、この3時間について受精し易い条件であることが重要です。

・梨の花粉が受精に至る為の条件
・気温
 花粉は最適気温25℃。10℃で発芽しなくなる。開花時期が4月のため気温15℃以上あると好条件とされる。
 10℃以上でも気温が低いほど花粉管の伸長が悪く、受精に時間かかり受精率が低下する。
・湿度
 雌蕊の花の柱頭が乾かないこと。乾燥は花の柱頭が乾くことで花粉が付着し難くなります。花粉も乾燥すると発芽率が低下する。
・風
 強風でないこと。強風は花粉の付着を妨げ、風があると日差しによる果樹周囲の気温上昇が悪くなります。
・降雨
 受粉後3時間は降雨がないこと。降雨があると柱頭にある花粉への養分が希釈され薄くなる。受粉した花粉が流されるなどで受精が失敗します。
 気温は梨の花粉の条件です。植物により花粉の気温条件は異なります。

・受精に至る条件への対策:
・気温への対策
 受粉した花粉が受精に至るまで15℃以上の温度が保たれるよう、授粉作業は午前中から昼頃に受粉させます。受粉後3時間以内に15℃以下への気温の低下が見込まれる15時以降の授粉作業を避けます。
 防風林と防風ネットを利用し、果樹園内の気温を周囲(果樹園外)の気温より高くします。
・湿度への対策
 乾燥注意報があるような日では、地表面に対して灌水や散水を行い果樹周囲の湿度を保ちます。人工授粉に使用する花粉は、作業前に程度湿気を持たせます。
・風への対策
 果樹園の周囲を防風林や防風ネットで囲い、果樹園内の風を弱くします。また、防風林や防風ネットの利用は果樹園全体の温度上昇にも繋がります。
 梨の開花時期である4月上旬の気温は、多くの地域で花粉の最適気温よりかなり低い気温です。果樹園内の風が強い・風通しが良いことは、単に花粉の付着を妨げるだけでなく、果樹周囲の温度が上昇し難く受精率が低下します。
・降雨への対策
 単に降雨だけでなく、花に多量の水が付着すると受精が失敗します。授粉作業の当日や、満開日には花を含む樹上への散水や、薬剤防除は行いません。

・管理人果樹園の授粉

 管理人の栽培環境では、防風林と防風ネットを利用した園内の気温対策。意図的に梨の品種を混在させて栽培することで結実しやすい環境を整えています。
 また、、毎年ミツバチを購入(レンタルも有)することで、最近の20年間程は自然授粉の促進のみで経営しています。

受粉の方法

梨の花の受粉(ミツバチ) 梨の花の受粉(ミツバチ)
 ミツバチが梨の花を受粉(訪花)する様子です。
 ミツバチは1匹が多くの花に飛来するため、受粉斑が少なく受粉効果が高い昆虫です。
 気温20℃から25℃の温度で受粉(訪花)を行います。
梨の花の受粉(クマバチ) 梨の花の受粉(クマバチ)
 クマバチが梨の花を受粉(訪花)する様子です。
 ミツバチを花の好みが異なりなるため、植物によってはミツバチより積極的に受粉(訪花)することもあります。
梨の受粉写真 梨の花の受粉(ハナアブ)
 害虫と認知されているアブによる受粉です。アブは種類により訪花性、捕食性、吸血性のものがいます。訪花性のものはハナアブと呼ばれ、ミツバチ同様に受粉を行う益虫です。
 害虫と思われているのは吸血性のアブです。ミツバチを比較すると授粉交配に斑がありますが、より低温15℃程度からでも積極的に受粉(訪花)してくれます。
プラムの受粉写真 異品種の準備(簡易型)
 プラム受粉において異品種を用意した状況です。
 プラムはソルダムしかないとき、自家結実しないため、知り合いより異品種プラム(大石)の枝を分けてもらい根元に水差しをして開花させます。
ミツバチ ミツバチの巣箱

ミツバチの働きについては、
果樹栽培の害虫と益虫>ミツバチ(蜜蜂)

梨の受粉・授粉に関する参考資料(外部)

黒星病のメカニズムに関する資料  2021年4月更新
再確認!なし授粉作業に向けた注意点 佐賀県果樹試験場資料
 主に人工授粉に関する資料ですが、品種の相性や花粉の付着や発芽等に関することが紹介されています。
ナシ人工受粉期間中のチウラムが着果に与える影響と散布時期 千葉県農林総合研究センター
 チオラム剤(チオノックFL、トレノックスFL散布による着果への影響が紹介されています。
ニホンナシ貯蔵花粉の順化は高湿条件により短時間で完了する 農研機構
 冷凍乾燥下で貯蔵された花粉を授粉に使用する際の順化させた際の花粉発芽率が紹介されています。

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